プロボウラー亀井勝江のブログ

(公社)日本プロボウリング協会公認プロボウラー14期生・亀井勝江のブログです

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レクエイム

昨年末、2人のボウラーが旅立った。KさんとMさん。
Kさんは、ボウリングに独特の理論をお持ちで、ボールは曲がるとストライクが少ないと直球を投げたがっておられた。ストライクになるポケットへの侵入角度から考えればその確率は直球より曲がった方が大きいと、曲がりのボウリングを薦めたけれど、彼の理論は変わらなかった。当然、ボールも曲がらない物を捜すことになる。彼のドリル(ボールに穴を空ける事)を担当する事になるまで、あの小さいドリル部屋で、4時間の大激論をした。通常、ボールは親指、中指、薬指の3本で持つ。彼は、曲がりが出ないように、人さし指も開けたいと。亀井自身、小指を開けたボールを、5年くらい投げていたので、それは理解出来たけれど、人差し指にはとまどった。特許をたくさん取ったという話から、研究熱心な方だと思ったものの、ピッチ(穴の角度)の法外な指定には、びっくりした。それでは持てないし、投げられませんよと言っても、「あんたが男だったら」だけなら、又、性の差別かと思うだけだけれど「物理学がわかれば」ってことになったところで、ピキッと切れた。たしかに、苦手ではある。「でもボールは平面ではなく球体ですよ」まして、ドリルの数値は長い歴史の膨大なデータから出た数値があり、それにドリラーの経験からの数値が出てくる。とうとう、ドリルをしません。になった。そのはてに、とにかくやってみてになって、この角度でここまでと言う指定通りにきっちり開けて渡した。案の定、投げられないとすぐ持ってこられて、それからは全部任せると。そうなると「亀井よりボウリングのキャリアは長い」が口癖のKさんを納得させさせたいと面白くなった矢先に、余命を聞かされた。投げられる間は投げると、大会も参加され練習もされた。もともと手と足のタイミングが抜群に良かったから、大会で上位が多くなった頃、「息が切れるようになったよ」「酸素ボンベを持ってきませんか」と会話をした後、亀井自身が肺炎、インフルエンザ騒動でセンターに出勤出来なかった。
その頃、逝かれた。
Mさん。医師から病名を聞いて「役職を全部辞めたよ、ボウリングもやめる」とセンターにこられた。国語の先生だったと聞いたから先生と呼んでいた。このコラムを書きながら文字の使い方を迷っていると、先生の顔が浮かぶ。チェックがあると妙にうれしかった。豪快なボウリングだった。バレンタインの日にチョコを一粒ずつ配って、生協新病院の建設の署名を頼んでおられた。その病院の建設の情報を見た時、先生のにこやかで凛とした顔を思い出す。

もし、余命の告知を受けた時、私はどちらを選ぶだろうか。


2014年3月号